激しい部活の後、一人暮らしだというのを良い事に、火神の自室にお邪魔したのが数時間前。
部屋の温度を二人の体温で上げて、もう後僅かで日付が変わる。

「いっぱい出たなー」

独りでやってないのかという、そういうデリカシーのない物言いもこの人が言うとそうは感じない。
生まれ持った性格というか、

(本音を隠して作ってる性格というか…)

いつもその仄かで優しい笑顔の裏で何かを企んでいる。らしい。

「こういうのも体調管理のうちな」

何一つ身に纏っていない胡座を掻いた姿でそんな事を言われても全く説得力がない。体調管理もくそもないだろう。
標準の高校生より遥かに大きな男が二人、向かい合わせてこんな話をしているのも酷く滑稽だ。

一人で寝るには丁度良いサイズのベッドも、自分より更に大きな相手とではとても狭く感じる。
実際に狭く、その機能をオーバーしているのだろう、先程まで壊れるんじゃないかと思える程悲鳴をあげていた。


「木吉さん、してんすか」
「んー、だから入院中困ってさ」

するとこなくてと、はにかむ顔が男らしくて胸の奥が疼く。

「ホント、どこまでが本気でどこまでが嘘が分かんねー人だな」

自分だけがそんな擽ったさを感じているのが悔しくて、悟られないようにはは…と掠れた声を出して笑い返した。
そして彼に焦点を合わせたその瞬間、ぶつかった視線で空気が変わった。

自分を真っ直ぐに見詰める眸。淡い薄茶色がカラーコンタクトを入れてるみたいで不思議な感覚になる。
決してきつい訳じゃないのに、寧ろ暖かいはずなのに長く視線を合わせていると時々怖いと感じるのは何故だろう。
その全てを見透かすような眼光に、思わず唾を飲み込んだ。

長い沈黙の後、木吉は少しだけ口元を緩め口を開いた。

「全部本気さ」

何度重なっただろう。

「オレは嘘は吐かない」

最初はどちらからだったか。凄く大事な事なのに覚えていない。

(でも)

多分、木吉から。
触れた唇も、息継ぎで開いた瞬間に割り込んできた舌も暖かくて、気が付いた時には夢中になって追い掛けて、口が疲れる程絡め合っていた。
その最初に触れてきた薄い、それでも柔らかい唇が信じろと甘い言葉で俺を誘う。

前屈みに顔が近付いて、また同じ事をされようとしている。
木吉の着いた掌がゆっくりシーツに沈み、腕に体重が掛かればギシとベッドが軋んだ。

「ン」

ちゅ、ちゅと音を立てて何度か吸われた後、戸惑いながらそれでも確実に唾液を交換し求め合う。
吐き出される息がやたら熱くて生々しかった。

こんな風にお互いを覚えるように、二人で居れる短い時間を惜しみながら身体を重ねてもそれだけなのだろうか。
男女のように本来の目的も結果も無いのだから。

(だから…)

好きだと、言葉には出しては貰えないのだろうか。木吉のくれる優しい愛撫には、お互いを気持ち良くさせる他に意味があるのだろうか。
首筋を這う舌と、それが残していく唾液の刺激に、木吉の腕を掴んでいた手が思わず震えた。

「ア………んっ…」

無意識に上げてしまう女みたいな声が恥ずかしい。時折触れる髪のくすぐったさにも敏感に反応して甘い声を漏らしていた。

数時間前に残した赤い淫らな痕の上に、また同じものを重ねていく。
服を着ていれば目立たない所に自分の証を付けるのが木吉らしい。

耳の下の方で唇と肌が触れる音がして遠ざかるアッシュ系の柔らかい髪。
それと同時に手首を掴まれて、シーツに押し付けられた。
するすると長い指が手首から掌、指の腹をゆっくりとなぞって重ねられ、その動作が厭らしくてとても気持ちがいい。

ゆっくりと与えられる快感に気持ちが高まっていくのを感じた。


見慣れた天井が広がり、その手前で自分を見下ろす木吉の端正な顔。
髪が、重力に引っ張られていつもと違う雰囲気にまた胸が高鳴る。

「お前もでっけー手だなあ」

こんなでかい男抱くの初めてと、あの得意の優しい笑みを零す。

「……当たり前だろ」

只でさえ男同士なんて普通では考えられない関係なのに、人数も回数も自分の知る以上に重ねられていても困る。
困るというか…

(俺だけでいてほしい)

そう思った瞬間に、重ねられた指がずらされて手を握られた。

「火神くん」

微笑んだまま絡められる視線は、自分の考えている単純な事なんて全て見抜いているみたいだった。
瞼を下ろして顎を上げて、自分からキスが欲しいと催促する。触れられたと同時に躊躇いなく舌を差し込んで、木吉の手を強く握った。

「ん…」
「…はっ」


火神の方から強請る時は大抵何かを隠したい時だ。

こんな関係になって、そして自分より年下なのだから少しくらい甘えても良いのに、男だからだろうか、弱い所は絶対に見せない。
身体が繋がった位で心までも全部丸裸にしたいと思うのは傲慢な事なのだろうか。


口付けては離れ、お互いに角度を変えて挑発し合う。

(キスは)

巧いんだよな、流石に。
海外生活で養われたものなのか、天性のものなのか、たかだかキスだというのに火神のくれる快感に偶にもっていかれそうになる。

(でも後は…されるがまま)

繋いだ手を離して、掌から腕、肩、胸板、腰へ指先で滑るようになぞると火神の身体は従順に反応を返してくれる。

(ああ、良い筋肉の付き方してるな…)

火神の引き締まった身体は、大して変わらない自分から見てもとても魅力的で綺麗だ。
腹筋を撫で、一番触って欲しいであろう部分に手をかけようとすると唇が解放されて名前を呼ばれた。

「……木吉さん…」
「ん」

仰向けで、相変わらず難しい顔をしているが、潤んだ眸と艶やかな表情に触れられる事が嫌な訳ではないことは読み取れた。

「なに考えてんの…すか」

眉間に皺を寄せて、これから気持ち良い事をしようとしている時に彼は何て顔をしてるんだろうといつも思う。

「火神くんの事」

不安気に結ばれた唇に軽く自身のそれを落とすと、照れているのか困っているのか、頬を染めて更にオレを睨み付けた。

「もっと教えてよ」

キミの可能性を。
お互い無理して作った時間。限られた時間だからこそ凄く大切に特別だと思えるんだってことを。

(…もっと知ってよ)

たった三年間の価値を。












いつ愛に変わるのだろう
そしてその瞬間に
自分は傍にいられるのだろうか




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